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亀の恩返し

 

子供の頃、父親が亀を連れて帰ってきた。割と大きな泥亀で、車で走ってた目の前をノソノソと這っていて、危うく轢きそうになった所を助けたらしい。

僕と妹は大はしゃぎで一緒になって遊んでたんだけど、母親はその珍客が気に入らなかったようで、「そんな汚いのは何処かへ捨ててきて!」みたいな勢いだった。

 

いくら頼んでも一向に聞いてくれないから、泣く泣く家の近くの田んぼに放つことになったんだ。

父親もその亀がずいぶんと可愛く思えたようで、自分の晩酌の酒を呑ませたりして別れを惜しんでた。

風呂上がり、母親を残して3人で亀を連れて田んぼに行ったよ、田んぼっていっても住宅街の狭い所だからまた、道路に上がって来てしまうかも知れないなぁ〜、なんて思いながらその亀を離すと、スイスイと泳いで少し行った所で、こちらに振り返ってペコリとお辞儀をしたんだ。

ホントだよ。

帰って母親に言っても、次の日学校で友だちに言っても、誰も信じてくれなかった。

けど僕たち3人は確かに見たんだ。

「亀の恩返しもあるんやなぁ〜」

僕と妹は50年以上も前のこの夜の出来事を今でもそう話しながら思い出すんだ。

そして父親はきっと竜宮城に連れて行ってもらったんだってことも。

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